ビストロ カンパーニュが出来るまでの道のり 最終章

 

1993年4月1日

ついにオープンの日が来ました。

前日は極度の疲れと緊張で体が硬直し、よく眠れませんでした。

朝6時に起床して、その足で築地市場へ向かい魚の仕入れ。(イトヨリ鯛、ホウボウ、ホタテ、車海老、ズワイガニなどなど)

8時に店に戻るとスタッフ達がもう来ていて、千葉県や埼玉といった契約農家から届いた野菜の下ごしらえをしたり、デザートの準備で大忙し。僕もさっそくコックコートに着替え、仕込みに入りました。

スタッフはル・コルドン・ブルー時代の仲間を中心に、フランス語の学校に通う学生さんや、大学の仏文科の女子大生の子達をアルバイトとして向かえました。開業前に学校に頼んで求人の張り紙を貼らしてもらったのです。なんかしらの形でフランスに関わりを持ち、料理やワインに興味のある人達で固めたかったのです。

又、1月には1ヶ月近くですが再びフランスに滞在し、お店で使うナイフやフォーク、バター入れ、タブリエなどを購入し、パリのレストランで働く友人を訪ねて、4月にカンパーニュというお店を開業するので一緒に手伝って欲しいとお願いしました。4月1日のオープンには残念ながら間に合いませんでしたが、彼がお店を持つまでという条件で働いてくれることになりました。

この時はまだ銀行の融資もおりるかも分からないのに、目に見えない力が自分を前へ前へと押し出し、外堀だけはガッチリ固めていきました。今思えば、大変無謀ですし、冷や汗もんです。

ブルゴーニュのボーヌで見た何のへんてつもない、ワイン飲みのビストロ。これを東京下町蔵前で再現させたい。その思いと情熱だけは人一倍あったと思います。

あともうちょっとでランチが始まろうとしています。店の前には1人2人。気がつけば10人近くいらっしゃるでしょうか。店が開くのを待ってるお客さん達が見えます。ちなみに本日のランチメニューはシェフサラダ、ヴィシソワーズ、キッシュロレーヌ、田舎風パテ、イトヨリ鯛のポワレ、仔牛のマレンゴ、クレームブリュレにりんごのタルト、などなどです。ランチメニューは前日に決まり、黒板に書き出し、少しずつ変化をつけていこうと決めました。

心臓の鼓動が高鳴ります。ボルテージも最高頂です。

さあ、初日のランチの始まりです。お店の中が人であふれ返っていて、ひっちゃかめっちゃかに見えました。

終わってみれば50人近くは来て頂いたでしょうか。初めて会う人ももちろんいるし、知り合いの方も来てくれました。スタッフ達も落ち着いて仕事をこなし、特に料理を待たせることもなく、トラブルやクレームといったものもありませんでした。後から分かったことなのですが、この日に向けて、僕の知らないところで夜中までシュミレーションを繰り返し、ミスのないように練習をしていたそうです。こういうスタッフ達と知り合えて本当に幸せですし、今でもこのイズムは受け継がれてると、信じています。

ランチを終え、15時に賄いを済ませ、今度はディナーに向けての仕込みです。ディナーのメニューも定番の料理と、少しずつですが変化をつけていく黒板メニュー。コースでもよいし、アラカルトでも対応する。このスタイルも、ボーヌのビストロと一緒です。

ちなみにディナーは予約ですべて埋まりました。ほとんどが地元の知り合いや友人達です。お店に来て頂く事はもちろんの事、地元の幼友達が皿を洗いに手伝いに来てくれたり、コルドンブルーのダニエル・マルタンシェフがお祝いにかけつけてくれて、お客さんにシャンパンを差し入れし、ふるまってくれました。その後も1ヶ月近く、毎日ダニエルシェフが顔を出してくれて料理や店の運営にアドバイスしてもらいました。この事は大変心強く、助かりました。今も尚、相談に乗ってもらいます。ディナーも無事終わり、体はヘトヘト。この先ずっとこんなしんどい事続けられるか、ちょっと心配です。

                                                  

2010年4月1日。 今日で18年目を迎えました。

『初心忘れるべからず』

開店初日の事を思い出し、書いてみました。あの日の事はまだ鮮明に覚えています。カッコ悪い思いもたくさんしてきました。人間関係でもずいぶん悩みました。折れそうになる時もありました。これから先もずっとそういう事って続くと思います。でもそれよりこの仕事が好きという気持ちが少しだけ勝っていたのだと思います。

1回や2回の挫折で夢を諦めないでください。カッコ悪い思いもプラスでとらえれば、そいつの肥やしになると思います。こんなへたれな自分でもやってこれたのですから。

最後にいつもカンパーニュを応援して頂き、ありがとうございます。

この先5年、10年とか気の遠くなるような話しではなく、1日1日ベストを尽くしたいと思います。

                                              終わり

コメント

  1. 18年目、おめでとうございます。

    シェフのブログはいつも楽しみに拝読させて頂いております。

    18年の道のり…思いはあるも、ひよっ子の私には長く険しい道のりと感じております。

    しかし、シェフのブログ内にあるように「諦めない。この仕事が好き。」という、一番大切な「根幹」を
    胸に、一歩一歩大先輩方の背中を目指して日々精進していきたいと思います。

    またシェフのガッツある料理を堪能させて頂きに、お店にもお邪魔させて頂きたいと存じます。

    くれぐれも御身体、御自愛下さいませ。

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