シェフの理想とするビストロ像 その1. by シェフ
「しかし皆さんよく飲むなぁ~。」
厨房で客席を見ながら調理するシェフ。思わず洩れてしまった一言。
ワインの空瓶がもうすでに10本近くになるのだろうか。
時計の針が19時30分を差す。
今日はやけに酒豪のお客さんが多い。
サービス担当のソムリエみほさんが料理とワインの対応に追われている。
「三陸産カキと野菜のグラタンがいいな。白ワインがいいんだけど何かお勧めは?」
何本かテーブルの上に白ワインを並べ説明してる様子が伺える。
「ブルゴーニュ地方のマコンヴェルジッソンなどはいかがでしょうか?
若々しくイキイキとしててフレッシュ感のあるシャルドネです。
三陸産のカキにピッタリだと思います。」
「ウン、わかった。そのマコンを頂くことにしよう。」
「ありがとうございます。すぐにご用意いたします。」
又、お隣のテーブルでは、
「お肉料理が食べたいけれど何かおすすめは?」
「はい、今ちょうどジビエの季節ですので北海道根室産フレッシュエゾ鹿のランプ肉ステーキなどはいかがでしょうか。肉筋がとても柔らかく思ったほどクセはございません。」
「うん、わかった。じゃあそのエゾ鹿を頂くことにして、これに合う赤ワインは?」
「はい。コートデュローヌの北のエリアで樹齢の古いクローズエルミタージュなどいかがでしょうか。2006年ヴィンテージで比較的若めですが樹齢の古い分、味はまろやかでシラーの特長が良く出ているワインだと思います。エゾ鹿の赤身の部分とシラーはとても相性がよろしいようです。」
「ウン、君の説明はとても分かりやすくて良いね。じゃあ早速そのクローズエルミタージュを頂く事にしよう。」
「はい、かしこまりました。すぐにご用意致します。」
おそらくこんな会話のやりとりがなされているのでしょう。
時計の針が20時になりかけた時に、気がつけば満席状態に。
しかも予約の電話が鳴り止まない。
「お電話ありがとうございます。カンパーニュでございます。
申し訳ございません、本日はあいにく満席でございます。
又のご来店をお待ちしております。」
注文のブイヤベースが出来上がり、厨房からシェフがでかい体を揺らしながらストウブの鍋ごとテーブルに運ぶ。
蓋を開けた瞬間にオマールエビと渡りガニの甲殻類とサフランの香りが
天井まで上った。食欲をそそる磯の香りがする。
一瞬お客様の歓声とどよめきが店内にこだまする。
お隣のテーブルのお客様もそれを見てついつい、
「私たちもブイヤベースを下さい。」
「はい、かしこまりました。少しだけお時間を頂きますが、お作りいたします。」
シェフがでかい声で返事をする。
スタッフのボルテージも上々に上がり真骨頂だ。
店内は熱気に包まれ、まるでライブをやってるかの様だ。
カンパーニュのお客様はよく食べ、よく飲み、よく笑う。
見ていても楽しくなる。やはりビストロはこうでなくっちゃ。
悪戦苦闘しながらも、すべてのテーブルに料理を出し終えて、各テーブルを回り、挨拶を交わす。
「たくさん食べて頂きありがとうございます。」
「うん、こちらこそご馳走様でした。又、寄らしてもらうよ。」
こんなお客様の一言が明日への活力、原動力、やる気につながる。
「休っすめねぇ~。でも続けてよかった~。」
こんな感じです。
時計の針が0時を差しかけた頃、すべてのお客様がお帰りになり、スタッフも退社した。店内は静まり返り、まるで祭りの後のようだ。
店の照明をほんの少しだけ落とし、お気に入りのジャズのCDをかけて一人寂しくワイングラスをかたむけ、バターピーナッツをほうばるシェフの姿がありました。
続く
コメント
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はじめまして。野澤といいます。
HPをよくみていたのですがこんなにも変わっていて
驚きました。
自分は、もう、8年くらい前にカンパーニュで4年位働いていたんです。
シェフにもお世話になりました。
こうして、ブログを見てみると、みほさん、タナカさんもお店の
事が好きなんだなぁと感じました。
自分が働いているお店は、今クリスマスでバタバタしていますが、
年末お互いに頑張っていきましょう。
今度又顔を出しにいきます。
野澤さん
遅くなりましたがコメントありがとうございます!
野澤さんもカンパーニュで働いていたんですね。
自分で言うのもなんですがとっても素敵なお店だと思います。
よかったらまた遊びに来てください。
シェフをはじめスタッフ一同お待ちしてます!!